top of page

研究テーマ Research Interests

​現在、​当研究室で精力的に進めている研究・開発テーマは以下になります。

酸化チタン Titanium oxides

酸化チタンの図

 酸化チタンは電気伝導性を示す遷移金属酸化物の中で最も原子番号が小さく、超伝導(TiO)から絶縁体(TiO2)まで全ての電子相を示します。加えてTi2O3やTi4O7の金属絶縁体転移、Ti3O5の光誘起相転移と相転移の宝庫です。

 Tiは軽くイオン化傾向が小さな特徴から酸化チタンは電子格子相互作用が大きな系です。エピタキシャル薄膜による格子歪みを利用することで、多彩な電子物性のさらなる制御が可能と考えられます。

 Ti, O共にクラーク数の低い元素で原料コストが低く、機能開拓による実用化の道が開けた物質と言えます。

電子デバイスとしての酸化チタン

MITを活用した脳型メモリ

 情報化社会は、Si半導体エレクトロニクスと共に発展してきました。しかしトランジスタの微細化限界から、新たな動作原理を持つ電子デバイス開発が期待されています。遷移金属酸化物が示す相転移を利用することで、従来の半導体では実現不可能な、新奇電子デバイスが提案されています。酸化チタンの中で、Ti2O3は~450 Kで金属絶縁体転移を示し、Ti3O5は室温でのパルス可視光照射で結晶多形間の相転移を示します。これら酸化チタンが示す相転移を活用した相転移メモリや脳型メモリといった電子デバイス研究を進めています。

[1] P. Stoliar et al., Adv. Funct. Mater. 27, 1604740 (2017).

​遷移金属酸化物の金属絶縁体転移を利用した脳型デバイス[1]

環境・エネルギー材料としての酸化チタン

Ti2O3の光熱効果の図

極小バンドギャップを持つTi2O3を用いた光熱変換による水の浄化

 二酸化チタン(TiO2)は光触媒[1]や色素増感太陽電池[2]で実用化される環境・エネルギー材料です。安全かつ安価な材料特性を活かし、他の酸化チタンも環境・エネルギー分野への応用研究が進められています。具体的にはTi2O3の極小バンドギャップを利用した光熱変換[3]や、Ti3O5の圧力誘起相転移を利用した蓄熱デバイス[4]が提案されています。当研究室では、酸化チタンの薄膜技術を活かして、環境・エネルギーデバイスの形成を進めています。

[1] TOTO: ハイドロテクト,  [2] RICOH: 色素増感太陽電池

[3] J. Wang et al., Adv. Mater. 29, 1603730 (2016).

[4] S. Ohkoshi et al., Nat. Chem. 2, 539 (2010).

化学としての酸化チタン薄膜

Ti-Oのエリンガム図

Ti-Oのエリンガム図と薄膜合成領域

 Tiは0, +2, +3, +4の整数価数に加え、+3~+4の非整数価数状態を安定にとります。加えて、Ti4+酸化物はルチル・アナターゼ・ブルッカイトと結晶多形を示す物質群です。熱力学的平衡に従うバルク合成では、エリンガム図(左図)に従い様々なTi:O組成比率を持つ酸化チタンを安定に形成することができます。

 一方で、薄膜においては実現可能な温度圧力領域がエリンガム図右上に制限され、熱力学的平衡下では、+4価の二酸化チタン(TiO2)しか合成できません。そこで、速度論的平衡の強いパルスレーザ堆積法を用い、様々なTi:O組成比率を持つ酸化チタン薄膜の合成と結晶多形制御技術の開発に取り組んでいます。

関連業績

  • K. Yoshimatsu et al., “Direct synthesis of metastable λ-phase Ti3O5 film on LaAlO3 (110) substrates under high temperatures” Cryst. Growth Des. 22, 703 (2022).

  • K. Yoshimatsu et al., “Metallic ground states of undoped Ti2O3 films induced by elongated c-axis lattice constant” Scientific Reports 10, 22109 (2020).

  • K. Yoshimatsu et al., “Large anisotropy in conductivity of Ti2O3 films” APL Mater. 6, 101101 (2018).

  • K. Yoshimatsu et al., “Superconductivity in Ti4O7 and γ-Ti3O5 films” Scientific Reports 7, 12544 (2017).

放射光を用いた電子状態・結晶構造解析
electronic and structural analyses using synchrotron light source

放射光計測の図

放射光ARPES測定によるSrVO3量子井戸のバンド分散。

K. Yoshimatsu et al., Science 333, 319 (2011).

 高輝度・高分解能な放射光を用いることで、実験室光源では観測不可能な真の結晶構造と電子状態を明らかにできます。これまで伝導性酸化物SrVO3を用い、強相関電子の量子化状態に特有の現象を観測してきました。
 KEK-PFやSPring-8の放射光施設を用い、光電子分光、X線吸収分光、放射光X線回折、X線磁気円二色性を用いて、合成した薄膜試料の電気・磁気特性と構造解析を進めています。新たな物質の特性を明らかにすることは、物質科学において基本的かつ最重要な研究テーマです。また、作製した試料を自ら計測することで試料合成へとフィードバックすることにもつながります。

関連業績 (PF)

BL2

  • K. Yoshimatsu et al., “Dimensional-crossover-driven metal-insulator transition in SrVO3 ultrathin films” Phys. Rev. Lett. 104, 147601 (2010).

BL16

  • K. Yoshimatsu et al., “Spectroscopic studies on the electronic and magnetic states of Co-doped perovskite manganite Pr0.8Ca0.2Mn1–yCoyO3 thin films” Phys. Rev. B 88, 174423 (2013).

BL28

  • K. Yoshimatsu et al., “Metallic quantum well states in artificial structures of strongly correlated oxide” Science 333, 319 (2011).

関連業績 (SPring-8)

BL15XU

  • K. Yoshimatsu et al., “Synthesis and magnetic properties of double-perovskite oxide La2MnFeO6 thin films” Phys. Rev. B 91, 054421 (2015). 

BL47XU

  • K. Yoshimatsu et al., “Thickness dependent electronic structure of La0.6Sr0.4MnO3 layer in SrTiO3/La0.6Sr0.4MnO3/SrTiO3 heterostructures studied by hard x–ray photoemission spectroscopy” Appl. Phys. Lett. 94, 071901 (2009).

密度汎関数法による電子状態計算

Calculating electronic structures based on density-functional theory

DFT計算の図

 理論計算の活用により、放射光計測で得られた実験結果の深い理解に繋げることができます。Quantum ESPRESSOを用いた密度汎関数法から電子状態計算を行い、Ti2O3のバンド分散や金属絶縁体転移の起源を明らかにしています。

密度汎関数法により計算したTi2O3のTi 3d部分状態密度

関連業績 

  • K. Yoshimatsu et al., “Evidence of lattice deformation induced metal-insulator transition in Ti2O3” Phys. Rev. B 106, L081110 (2022). 

  • N. Hasegawa, K. Yoshimatsu et al., “Direct observation of band structure for Ti2O3 thin films by soft X-ray angle resolved photoemission spectroscopy” Phys. Rev. B 105, 235137 (2022). 

  • K. Yoshimatsu et al., “Metallic ground states of undoped Ti2O3 films induced by elongated c-axis lattice constant” Scientific Reports 10, 22109 (2020).

装置開発 Development of new experimental systems

実験装置の自主開発
No_image_available

二交流ホール効果測定装置の3D CAD図と実際の装置写真

 合成・計測装置を自主開発することで、真に独創的な研究を行うことができます。加えて、装置開発は原理原則の理解や周辺知識の獲得に繋がります。また、研究費の削減にもつながなります。

当研究室ではこれまで、

の開発・改良を行っており、現在もいくつかの実験装置の開発を進めています。

LabVIEWをベースとした制御プログラムの開発
No_image_available

LabVIEWにより構築したPLD装置の制御プログラム

  National Instruments社のLabVIEWを用いたGUIによる制御計測プログラムを開発しています。これまで、

  • VISAをベースとした計測器の制御による抵抗率の温度依存性やホール効果測定プログラム

  • RS-485/Modbusによるステッピングモータや温調器の制御によるPLD装置のプログラム

  • USBカメラとNI visonによるRHEED解析プログラム

を開発してきました。

 ソフトウエアを独自作製することで制御・計測のブラックボックス化を防ぎ、研究費の節約にもつながります。

bottom of page